-それはつまらない日常-

「永遠」とはなんだろうか
人はいつもそれを望み
そしてそれを恐れた
けれど、もし「永遠」を手にしたら
人は何か変わるのだろうか

「永遠」
それは
幸福を齎す物か
不幸を齎す物か
誰が答えを知っているのか


風が強いある日のことだった
空はいつものように紅く染まり
その昔から変らずそこにあった
まるで誰かの帰りを待っているようだ
「もう、久しくここに来てなかったな」
声の主は神々しいまでの神気を振りまきながら
風を纏っていたかのように
丘の上にふわりと降り立った
そしてそのまま、まるで何事もなかったかのように
乱れた髪を指で梳いてみせる
「神奈子様が来たくないっていったんじゃないですか?」
後を追うように後ろから少し高い声がする
神奈子と呼ばれた相手は軽く笑みを浮かべた
「遅いぞ早苗」
「・・・遅いって・・・
 歩くの面倒って
 勝手に一人で飛んで行ってしまわれたくせに」
少し呆れ顔のその声の主は
風に翠色の綺麗な髪を靡かせ
緑の草木を払い除けその丘の上にやっとついたようだった
「お前も飛べはいいのに」
「・・・一応言っておきますが
 人間(わたし)にそう簡単に言わないでくださいね」
早苗と呼ばれた少女は
ふぅと一つため息をついてから
神奈子が見つめる夕日の方を見た
「この景色、本当に久しぶりですね
 大体ご自身の土地なんですから
 もうちょっと頻繁にいらしてもいいんじゃないですか?
 見守るのも神様のお仕事では?」
早苗は少し呆れたようにそう呟いた
「・・・まぁ、なんだ
 所詮今はお飾りの神だしね」
神奈子は苦笑した
早苗は表情を変えないままだ
「諏訪子様のモノという訳ではないじゃないですか
 ここはあなたの土地なのですから」
「表向きはね」
「・・・」
「別に思うところがある訳じゃないよ
 私は人間達が幸せに暮らせればそれでいい
 それを作るのが諏訪子だろうと誰だろうとね」
「声がそう言ってませんけど」
「・・・」
「しばらくは諏訪子様に勝ったのに
 なんでこうなるんだって
 愚痴愚痴言っていらしたのに」
「愚痴なんて言ってないよ
 早苗はすぐに事を大きく言うから」
「私だけ悪者ですか?」
早苗はむすっとしたようにそっぽを向いた
碧色の綺麗な髪が夕日に煌き
そして風にたなびいていた
神奈子はそれにそっと手で触れてみる
「?神奈子様?」
早苗は少し驚いたように神奈子を見つめた
「綺麗な色だなって思ってね」
「と、突然!?・・・」
「諏訪子の色だ」
「!?
 やっぱり拗ねてるんですか!?」
思いがけない言葉に早苗がまたむくれる
それを面白そうに見つめる神奈子は
口角を少し持ち上げた
「言っておくが・・・
 蛙は食料だからね」
「・・・私は食べたくないです
 それに大体諏訪子様は蛙色じゃないです・・・」
神奈子は早苗のふてくされ顔を嬉しそうに見つめる
「・・・そんなに食べたいなら神奈子様の分だけ
 うーんといっぱい作って差し上げますから」
「そんなには要らないよ
 蛙は非常食だから日常は食べないもんだ
 そもそも私たちはそんなに食べなくても生きていけるのに
 お前は毎日甲斐甲斐しく作るから」
「・・・お嫌ですか?」
その言葉に早苗はさっきと変わって悲しそうにうつむいた
「だって、私は人間です
 神様になりたくたって、生(な)れません」
「・・・」
「知ってる癖に
 すぐそうやって意地悪するんですね」
「お前の表情がくるくると変るのが楽しくて」
「・・・やっぱりやっぱり意地悪です」
「だから、違うって」
神奈子は大きくため息をついた
早苗がまた向こうを向いたまま
振り返ろうとはしないようだ
しばらくそうして眺めていたが
早苗の機嫌が戻る気配はない
仕方なく神奈子は重い口をあけた
「この土地にはなかなか来れないが
 でも、あそこに行ってよかったよ
 あいつらと出会って嬉しそうだ」
「霊夢たちですか?」
「・・・」
「・・・騒がしいだけです
 何の前触れも無く押しかけては
 いつもご飯ねだるん・・・です・・・よ」
早苗ははっとしたように神奈子を見つめた
「私たちが与えられないものを
 早苗に与えてくれるからね
 感謝しているんだよ」
「神奈子様・・・」
「まぁ、性格に難がある奴らばかりだがね」
神奈子は嬉しそうにそう呟くと
そっと早苗の頭に手を置いた
「人間はすべて私たちの子供
 そう思っていたけれど
 私は早苗を同じには見れないんだよ
 ・・・誰よりも幸せで居て欲しい」
「・・・ずるいです
 いいトコ取りですね」
「お前が死んだら神になれるように
 祈っててやろう」
「それってあんまり嬉しくないです
 神様にしてやろうじゃないんですか?」
「精一杯の私の譲渡なんだが
 大体神になるのは大変なんだぞ
 早苗だって知ってるだそうに」
「いいですよおー、別に
 神様になんてなりたくないですからねー
 今日は人間仲間の霊夢たちが来ますから
 いっぱいご飯作るんですから
 これがもやもや発散なんです」
早苗はそういって一瞬にして神奈子との距離を取った
「先帰りますからー!
 好きなだけ居ていいですけど
 遅いとご飯ないですからねー!!」
そういって大きく手を振りながら
早苗はそそくさと丘を下って行った
後には一人神奈子が残される
「知ってるんじゃないか」
神奈子は微かに微笑んで呟いたまま
しばらく沈みかけた陽をまた見つめた

「また早苗で遊んだの?」
突然後ろから声をかけられ
神奈子ははっとして振り向く
「諏訪子・・・」
諏訪子と呼ばれた声の主は
少女のような微笑で神奈子を下から見上げた
「性格悪いと嫌われちゃうよぉ」
「本気で言ってるとは思えんけど・・・
 お前の場合は早苗にいじめられてるがね」
「むぅ、いつもそういう事ばぁっかり
 そういうところが嫌われるんだよぉ」
「ふん・・・」
「大体あの子は私の可愛い子孫なんだから
 優しくしてあげてってば」
「・・・未だにそこだけは気に入らんな」
神奈子は不機嫌そうに諏訪子を見つめたが
当の諏訪子は早苗がかけて行った方を見つめたまま
そ知らぬ顔だ
ただ、その表情はとても優しく
そして穏やかだった
「多分お前と今考えてることは同じだな
 癪だが」
「え?やっぱり(笑
 早苗・・・幸せで居て欲しいよね」
「あぁ・・・」
ただそう呟いた神奈子も
諏訪子と同じ表情で同じ方角を見つめた
そこには何年も前から変わらない
人々の暮らしが見えた気がした


「永遠」
それは本当に必要なものなのだろうか
限りがあるから輝く光
それが美しいと思うのは間違いだろうか?
その答えはきっと誰にも分からないままだろう

ただ、思うは
終わりのその時まで
愛する者の傍に居られるように

ただ、願うは
終わりのその時まで
愛する者が幸せであるように